清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第14回公演〜ラーメン屋一代繁盛記 こいくち〜
(1997.11.22-23)

2005年 1月10日

ハードボイルドの時には既に決まっていたこの公演は岐阜市民芸術祭参加作品でした。そしてAPとしては初めてのちょっと大きなホールでの公演でした。

旗揚げを除く12回の公演はすべて御浪町ホールでやってきた私たちでしたが、なにも好き好んで同じところで続けていた訳ではなく(いや、好きなホールなんですが)、他に手ごろなホールが近くにないのです。それは収容人数的にも金銭的にもということです。
補助金が出て大きなホールで出来るというお話をいただいて、不安でもありましたが、私はうきうきでしたね。

こういう公共のホールでの公演はやはりそれなりのノウハウが必要で、単なる今までの延長ではとてもできなかったのでしょうが、私たちも6年間の活動のなかで大勢助けてくれるプロの人とお知り合いになっていたので、彼らをあてにして出来ると判断したのでした。
当時は劇団員 浅野の勤め先であったことも大きな要素でしたね。
また、劇団としてもけっこうな人数が確保できたんです、当時は。

作品はラーメン屋一代繁盛記の再演で文句なく決まりました。劇団内でも思い入れが強く、お客さんからも要望の多かったこの作品は、大舞台でも十分通用するパワーを持っているように思われました。
会場は未来会館の長良川ホール。収容人数500人と言えば、いつものホールの5倍の広さです。
このころは多分600人くらいの動員だったと思いますが、このホールで2回公演して恥ずかしくないくらいにお客さんが入るかが一番の心配事だったのでした。
キャストは初演をベースに以下のように決まりました。

初演 再演
蔦川信一 池戸俊之 小森寛文
門屋町一平 沓名 稔 沓名 稔
寺崎カオル 小川公子 小川公子
寺崎トオル 土本忠秋 土本忠秋
江尻昌世 江尻昌世
中根令子 山田恭子 馬渕笑子
間瀬正一 清水康弘 中村充孝
師匠 福富英玄 清水康弘
弟子 辻 太一
ウーロン・ガイ 原 巧実 原 巧実
チャーシュー・メン 石神亜子
ワンタン・メン 竹島ゆうこ
中島充雅 浅野直司
大原朋子
伊東亜樹
佐藤朱里
まずいラーメンのおやじ 中島充雅

自分は初演で福富が演じていた師匠役でしたが、前とは全く違う作り方になり、相方に弟子の辻もいて実に楽しかったです。
中村は前に僕がやった役を僕がいる前でやるのはさぞかしやりにくかったろうと思うのですが、よくやってましたね。でも相手役も前とは違うし良かったですよね。
楽屋が広くて綺麗で快適でした

装置の仕事はホールの下見から始まります。
なにしろ初めての場所ですから、まずはその場所を実際に見てみないと何も進められないのですよね。舞台の寸法、吊りものの位置、袖の状況、備品、通路、楽屋、照明室、コンセントの位置、ロビーとさんざん見て回りました。
中で最も問題だったのは、このホール、幕が全部エンジ色なのです。
なんで?黒でしょ普通。と浅野に「ホールの為に取り替えなさい」と忠告したのですが浅野にそんな権力はないので、自分でなんとかして黒にしないとねー、と相談していたわけです。
しかし、吊りかえるにしてもあれ、1枚200kgとかあるんですよね。浅野2人分ですよ(当時)。ほんとに黒じゃないとダメ?と、長い事言われてましたが、ダメなんです。

さて、台本は基本的に初演通り。
改訂があったのは、冒頭の雑魚寝シーンがまずいラーメン屋が辻斬りに斬られるシーンに変わったのと、ウーロン・ガイにアシスタントが2人ついたり、師匠に弟子がついたくらい。人が増えているのはにぎやかしですね。
装置としては初演同様、屋台1台あれば出来る芝居なのですが、せっかくの大舞台ですから広さを生かす事を考えますよね。

初演では転換用に切れ目の入った引き幕を使用しましたが、今回はそんなことはできません。暗転幕と紗幕で処理するようにしました。紗幕というのは網みたいな幕で、その幕の後ろは普段見えないけど明かりが入るとボンヤリ見えるので、うまく使うと良い効果が出るんですね。
ウーロン・ガイとの対決シーン、御浪町ホールの広さでは屋台を2台も出せないということで屋台対決にするのを諦めた経緯がありましたが、今回は当然やることにしました。2台の屋台が闘います。

門屋町一平の屋台も初演を再現するだけなのですが、ベースのリヤカーは劇研で物を運ぶのに使ってもらっていて、かなりガタがきていたので、代わりを探した方がよさそうだと思いました。あと、ウーロン・ガイの屋台用の車も要りますしね。
そしたら大原さんの知り合いの家で処分するリヤカーが2台あるとの情報をキャッチ。ある晴れた日曜日、トラックをレンタルして僕と大原と中村の3人で蟹江まで譲り受けに行きました。帰りに環状線沿いのハンバーグレストランで昼食をとり、「あー、こんな天気のいい休日にゆっくり昼ご飯を食べてぼんやりしているのってなんて幸せなんだろう・・・」と大原とふたり気持ちを通わせているのを、まだ大学生の中村は不思議そうに眺めていましたっけ。

いただいたリヤカーは4輪の特殊な格好のものでしたので、1台は2輪+補助輪に改造しウーロン・ガイの屋台として使う事にして、一平の屋台は前回のリヤカーを修理して塗り直し(タイヤも交換したかな)なんとか使いこなす事ができました。

しかし残念ながら初演時の設計図がなかったのです。
考えながら作り上げたものだったので、多分メモをとりながらやっているはずなのですが寸法の入った図面としては何も残っていない状態でした。
まあ最初に描いたデッサンと当時の写真がありましたし、なにしろ1回は最初から最後まで自分で作っているわけですから、記憶を頼りに割と順調に再現できました。
ただ、保存してあると思っていた「ラーメン」ののれんが紛失していて、また作らなければなかなかったのはちょっと悲しかったです。自分で縫って、書いたんですよ。提灯も新調したのかな。

ウーロン・ガイの屋台については、小森に任せることにしました。
小森は主役なのでどうしようかともチラッと思いましたが、面白い絵を描ける奴だし工作も得意そうなので思い切って任せてみました。作業ペースが遅いのが玉にキズでしたが、相談にのりながら結構いい屋台を作ってもらえました。
実はホール仕込み当日に恐ろしい事があって、岐阜大学から未来会館までトラックに荷物を載せて移動するわけですが、この龍型の屋台をトラックにどう載せるかという話になって、「けん引すれば・・・」などというバカな意見もあったなか、「やっぱり進行方向を向くように載せるのが自然だよね」ということで、前向きに載せて走り出しました。沓名がトラックの運転、その後ろを僕が荷崩れがないか確認しながら走るという順だったのですが、なんとトラックの荷台の上であの龍の大きな口が風を受けて「ぱかっ」と開いたんですね。助手席の誰かと「うおー!」をわけのわからない雄叫びを上げながらクラクションを鳴らしトラックを止め、チェック!
どうやら大きな破損はなく、他の荷物も大丈夫と確認した後、龍の口を縛って再出発。無事にホールにたどりつきましたが、あの瞬間は本当に「終わった」と思いましたね。あわや大惨事というところでした。
気分で荷物を積んではいけません。

今気が付きました。
家にある子供のトーマスシリーズのビデオのなかに、トーマスが龍の張りぼてを積んで走るのをみてパーシーがびっくりする場面があるんですが、まさにあんな感じの姿のトラックで走ってました。(すみません、分かる人だけわかってください)

こんな大きなものをどこで作るのかといえば岐阜大学の文化系サークル共用棟の前であり、ずいぶん学生の皆様にはご迷惑をおかけしたことと思います。
でも、2台の屋台はこうして結構丁寧に作りこんだおかげで、舞台でもいい味をだしてくれました。
しかしあんなものを2台も使って稽古できるだけの広さはなかなかなくて、結局また岐阜大学のピロティで稽古するはめになりました。
いざ長良川ホールで屋台を動かしてみると、広いと思った舞台も意外と狭く、2台のレースシーンはコース取りに大変苦労しました。
   ***屋台対決のシーンを動画でお楽しみください***
   ***屋台の疾走シーンを動画でお楽しみください***

「ゴミ」なんてセットがありました。だれが作ってくれたんだろう。
忙しくて放っておいたらだれかやっておいてくれました。中島先生かな?

舞台の方は、クライムの松尾さん(当時アシスト・エイム)に相談を持ち掛けました。台本も渡して、こんなことをしたいんだと。
真っ黒でいきたいので、ニードルパンチも黒でお願いし、エンジの幕もすべて黒に吊り替えまたは重ね吊り。
前半で屋台のあるガード下の感じを何か出せないかと相談していろいろアイデアをもらったのですが、これは僕のほうでちょっと自信なくて生かせませんでした。
冒頭で門屋町と信一が出会う夕焼けのシーンについて話した時、「こんな幕があるけどどう?」と言われたのが、半円形のカットが入った黒幕。「これでホリゾントがオレンジ色なら夕日っぽくない?」と、これはいいねと使わせてもらいました
   ***夕焼けシーンを動画でお楽しみください***

この半円幕は後でも役に立つのですが、それは屋台くずしの時。
実はこの幕の中央、一番下がったところにはワイヤーが仕込んであり、屋台くずしの前に舞台上の沓名はそのワイヤーを屋台の金具にセットし、ワイヤーの反対側は半円幕の後ろで待機していた原が持ち、きっかけで引っ張って屋根を飛ばすという作業をしており、ちょうどいい隠れ場所ができたのですね。
今回も屋台には照明機材を仕込んであったので、そのコードを袖に伸ばすのもこの幕に隠してやりました。
   ***屋台崩しのシーンを動画でお楽しみください(1)***
   ***屋台崩しのシーンを動画でお楽しみください(2)***

あ、ひとつできなかったこと。
土本が刀を出すところで床から手品のように出そうと設計したのですが。図面と現場がちょっと違ってて実現できなかったのでした。
べつにそんなことする必要もなかったんですけどね。
クライマックスは照明も音もきれいでしたねー。
   ***ラストシーンを動画でお楽しみください(1)***
   ***ラストシーンを動画でお楽しみください(2)***
   ***ラストシーンを動画でお楽しみください(3)***

照明は、はぐるまのアダチミヨカさんにご協力いただきました。
もともと仲良しの人でしたのでホールの照明のハード面ソフト面で大変お世話になりました。佐々木はいつもと違うすばらしい調光機を使えて喜んでいました
音響についてははぐるまの岩田さんにお世話になりましたが、このときの縁で玉置とお近づきになったんでしたっけ?
音響さんは客席に操作席を特設してやってました。

立看板は例によって玉置作でしたが、ボードに虫ピンを刺して点描するという凝ったものでした。
公演終了して装置の解体作業の時も壊すのが忍びなく最後まで残されていました。
その挙句、顔を切り抜いてみんなであてがって遊ぶことを始め、さんざん楽しんだ後捨てられました。

本番の時は、受付や会場整理などで大勢の人手が要るのですが、ラッキーキャッツさん、桔梗屋さん、劇研さんらには大いに助けていただきました。
おかげさまで、動員は780人と劇団の最高記録となり改めてこの芝居が劇団の代表作となったのでした。今もこの動員数を超えられないのがツライ。
でも、この公演があったからこそ4年後の芸術祭、第20回公演 IC.Ghost は文化センターで自信を持って好きなようにやれたのですね。
いつも多くの人に助けられてやっていけることに感謝します。

次回は一転して負の方向に振り切った番外公演、三人の地蔵です。

 

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