清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第12回公演〜晴れときどき曇り ところによりamazing story〜
(1997.2.8-11)

2004年 7月19日

浅野,中島,長久,福富といろんな人が台本を書いてきたのですが, ここでまた新たな作者の登場となりました。
私たちの岐大時代の先輩で,当時ジャブジャブサーキットにいらっしゃった野々村智子さん(ペンネーム佐木島あおいさん)が本を書いてくれるということで,しかしそれで「はいやりましょう」とはならず,一応いつものように台本選考会を開いてそこに本を出してもらって,3本くらいの中から結局この作品に決まったように記憶しています。
あとの祭りのなかでもかなりの異色作になったのではないでしょうか。

参加メンバーは前回とほとんど変わらない中,土本が久しぶりに参加しています。スタッフもかわりばえしませんので今回はコメントなしです。早速装置の話にしましょう。

台本を読むと,SFではあるもののあまり突拍子ない場所はなく,ごく普通のお部屋や街角の描写ばかりで抽象化してしまう訳にもいかず,かえって手こずることになりました。
主人公は絵描きを目指しながらもちょっとくじけてて看板屋のバイトをしている女性「南緒ちゃん」で,舞台はその作業場から始まります。
そして南緒が下宿している家の老夫婦の居室,南緒の部屋。芝居の前半はこれらのシーンを行ったり来たりして話が進みます。
後半は,なにか変な組織の部屋,変な博士の実験室などなども入ってきて,最後はビルの屋上の大看板に南緒が絵を描き始めるシーン。

装置としてのテーマは大きく二つに絞られます。重いほうと軽いほう。
重いほうはもちろん転換です。これまでもさんざん苦労してきた転換ですが,それも極みといった感じでした。
前半は限りなく具象に近い場面をコロコロ入れ替えなければなりませんし,後半は後半でどう差別化していくのか。御浪町ホールの小さな舞台と袖でどうやってスピーディーに転換しようか必死でした。

軽いほうは,看板やさんの作業をどこまでリアルに再現するかでした。
こちらは劇団員の石神のお父さんが本物の看板職人と言うことで,取材をさせてもらいました。
休日に今のワイフと(未婚のころ)工房にお邪魔して(ビデオカメラも持ち込んで)お話をうかがいました。
ここで作業台の構造や実際のレタリングの手法まで,こと細かに教えて頂きました。さらには石神亜子のヒミツにまで話は及んだのでした。
帰りにはお土産に少々の小道具やいらなくなった看板なども頂いてしまいました。

さて,重いほうのテーマはずいぶん考えました。
手法としては,以前からネタとしては温めていたのものの,あまりに大変そうな為あえて避けてきたものでしたが,ここで使うしかないと決断したのでした。
縦に細長いパネルを沢山吊り,これはすべて独立して操作できるようにします。
パネルの後ろには各場面のパーツを置いておき,該当する場面で該当するパネルを開けばそれに応じて場面が変わるというプランでした
後半では具象の必要性がなくなってきますので,後ろのパーツを撤去し,パネルと隙間の組み合わせでシーンの印象を変えようと試みました。

こう書いてしまうとあっさりしますが,設計図はなかなか完成しませんでした。
パネルの幅,枚数,設置角度,角度を維持しつつ可動させる部分の構造,全体の保持部の構造,ロープのかけ方,各場面の設定ポイントへの移動方法等,重要ポイントがいくつもありどれも微妙にいろんなバリエーションが考えられるので,ひとつひとつ固めていってはまた思い直しての繰り返しで製作が遅れました。
結果的にパネルの枚数は18枚,すべて独立で動かせるようにしました。
可動部については,18個の保持パーツの両端ににドア用の滑車を取り付け,レールで上下から挟み込み平行移動できるよう,且つ脱輪しないよう一体型のユニットにしました。照明とのからみでパネル上部は空けておかなければならないので,保持パーツからワイヤーでパネルを吊る形にしました。
あと,ロープのひっかけ機構もユニット化しておきました。
これらの各ユニットをホールに入るまでに作成しておいて,あとは現場での仕込みです。

まずはレールユニットを固定します。天井の鉄骨からワイヤーで吊り下げ,下袖入り口の天井の柱にベタで縛り付け上下左右のふらつきを固めます。
次にロープの引っ掛けユニットをレールユニットの両端と下手先端直下に固定。
本当は全部滑車にしようかとも思ったのですが,お金と手間と設置スペースを惜しんでいたので,アルミパイプを2本並べて固定し,その間に18本全部ロープを通して,ロープ間はワイヤーを張って分離するようにしました。
そこにロープをかけます。保持パーツの中心にヒートンを打ちそこにロープの一端を結び,上手のユニット,下手のユニット,直下のユニットを通して,また下手のユニットを通って保持パーツに戻ってきます。これで一個の保持パーツが可動できます。同様に18個のパーツすべてにロープをかけた後,ロープ同士がからまないようにさばいてやっと個々のパーツが単独で動かせるようになり第一関門突破。各保持パーツにパネルを吊り下げてまずはひと段落です。

第2の難関はオペレート機構です。
まずはセッティング位置を確認し,18枚のパネルを各場面でどう配置するかをインプットします。それぞれの配置の時のロープの最下端部にカラーテープでマーキングして,同じ色をそろえると配置が完了するようにしました。
そして,きっかけで瞬間的に18本をすべて制御して位置決めするためには,もうひとつ小道具が必要でした。
棒に18本のロープを縛り付け,ロープの先端には引っ掛け金具を結び付けます。マーキングの位置に固定したリングに金具を取り付け,棒を思いっきり引っ張るとリングが最下端まで引っ張られて揃います。これで配置完了
ずいぶん試行錯誤しましたが,最終的に18枚のパネルが思い通りに動く様子に一人で感動していました。
本番ではこのオペレートを原巧実と土本忠秋にすべてお任せしてしまいました。
ホントご苦労様でした。
自分は絶対に出来ると信じて作業していたのですが,沓名は「動かなくても仕方ないかな」とひやひやしていたようで,後に私の結婚披露宴でのスピーチのネタになっていました。

さて完成を喜ぶのも束の間。最後に思わぬ難関があり,ある意味これに最も苦しまされました。
パネルは吊られて可動式になっているため当然下は浮いています。ということは動いた後ゆらゆらゆらゆらいつまでもゆれていてなかなか止まりません。
新しいシーンが始まる時に後ろでパネルがゆらゆらしてたらダメでしょう?
どうしたら揺れを防げるかとみんなでいろいろ試して,最終的にはパネルの下に布を貼り付けて床に擦らせておくというものでした。但しこれもすごく微妙で,布の質,布の枚数,床に当たる長さ,パネル自体の高さとのバランスなどにより状況が様々に変化しましたので,結局最後まで調整を続けていました。
この作業で分かったのは,どうやらレールユニット自体が床に水平にセットされていないようだということでした。同じパネルでも居場所によって床からの高さが違い揺れ方も変化するというのでちょっと迷いましたが,それを直すということは「振り出しに戻る」ということなので,もう無視しました。

注意点としては,ロープは使っているうちに必ず伸びてくるのでこまめに微調整が必要だということです。
本番前は必ず脚立を持ってきてロープの張り具合,レールと滑車の状況,ロープの曲がり目,結び目,マーキング箇所のチェックを欠かしませんでした。
おかげさまで本番で大きなトラブルもなく千秋楽を迎えることができたのですが,千秋楽の最後の最後,ビルの屋上のシーンで18枚のパネルが全部無くなって,ただ広いだけの空間にしたかったところで,数枚のパネルが下のほうに残ったままになってしまいました。それはそれでシーンになっていたので,初めて見るお客さんにはそれが失敗だとは分からないのですが,とても悔しい思いでした。
公演終了後,一体何が起きていたのか現場検証すると,短時間では再起不能な程にブロークンで,それを見て急にドキドキしてしまいました。
ぎりぎりまでもってくれて助かりました。

もう設計図も残っておらず,自分で作っておきながらもどうやって作ったのかさっぱり分からなかったのですが,写真をよく見ているうちにすべて思い出しました。
他に方法が無かったのかと思うのですが,よくやろうと思ったものだと当時の自分の無謀さと努力に感心します。今の自分ならどうするだろう...

さて,次は第13回公演〜ハァドボイルドの犬達〜です。お楽しみに。

 

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