清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第11回公演〜おいしいキッス〜
(1996.9.14-16)

2004年 5月 23日

前回公演からほぼ半年後の公演は中島作品です。 
小森寛文が初参加で主役。そしてヒロインには石神亜子。新人2人を主役に抜擢するという大胆なキャスティングでしたが、うちはこういう事をよくやります。 
特筆すべきは劇団ジャブジャブサーキットの小島好美さんが客演してくれたことですね。彼女はもともとお友達みたいなもので、ジャブジャブサーキット主催のはせさんにも快諾して頂き、トントン拍子で決まった客演でした。客演だからといってちやほやする訳でもなく、衣装スタッフとしても思い切りこき使われたようです。
 ロビーでの写真のなかに小森の同期の子が写ってました。「彼女に関する覚書」で入団したばかりの高見もいます。当時は劇団桔梗屋のメンバーだったのかな? ちょっと笑えます。

さて、お話はアイドル歌手とアイドルオタクのラブコメです。 
ある化粧品会社が開発した口紅に特殊な成分が配合され、その口紅を引くと言った事が真実になるという、いわゆるサイコキネシスが発現されるのですが(最古杵死すと変換されて力が抜けました)、そのことに気付かず開発してしまった化粧品会社の開発陣と、口紅のCMに起用された新人アイドル志穂。一方その口紅の秘密を知り、その力と志穂を利用しようとする人々。志穂を助けようとするが理想と現実の差に葛藤するアイドルオタク竹内。 というかんじ。

作者中島が最初に発想したイメージは、アイドルの歌をバックに戦闘を見せるというシーンだったそうです。(なんていうマンガでしたっけ?) 
台本に出てくる場面としては、まずテレビ局のスタジオ。ここでは様々な撮影が行われます。口紅のCM撮影、森の中バージョンのCM撮影、クイズ番組など。
他に、テレビ局のトイレ、廊下、竹内の部屋、遊園地、コンサート会場、楽屋、非常階段、空を飛んで戦う(!)、などなど。 
例によって、ほとんどのシーンは基本デザインの舞台で対処し、ポイントを絞って転換することにしました。 
基本デザインは、やはりクライマックス、コンサート会場で志穂が歌うシーンと戦闘シーンをシンクロさせる場面を中心に考えました。
別空間の表現が必要ですので、BYPLAYERでやったように舞台の後ろ半分を段にしました。
シーンは 
@志穂がコンサート会場で歌う 
A竹内と志穂のマネージャー恩田、彼らは口紅の力で空を飛びながら戦っている
B非常階段を上る女刑事とAD 
の3組。
@をずっと見せながら、AとBを繰返し、最後に全員集合という流れです。 
まず亜子ちゃんには舞台前でずっと歌って踊っていてもらいます。 
空中戦のシーンは、実際に飛べるわけありませんので後ろの段上で戦いましたが、飛び立ちと飛び降りで照明を絡めてうまく飛んでいるように見せかけました。 
非常階段は段上を左から右へ繰り返し走らせました。 
あ、別空間の表現をもう一箇所思い出しました。コンサート前の楽屋で志穂が覚悟を決めて口紅を引く時、段上では竹内が悶々と思い悩んだ末自分も口紅を引いて立ち上がるという、これもなかなかいいシーンでしたね。

段はテレビのセットでたまに見かけるような透明なものにしたかったのですが、アクリル板は高価ですし加工方法もよくわからないので、BYPLAYERで使ったエキスパンドメタルを再使用しました。但し、今回はヒールを履いた女性が立つので、その上に薄めのアクリル板を引くことにしました。 
ただの真四角では面白くないので八角形にして、奥はさらに一段高くしました。
BYPLAYERの時は段に上る階段もないような状態でしたが、今回は反省して、きちっと階段を作りました。しかもちゃんと階段の間から後ろが見えるように作りたかったので、今まで買った事がないような分厚い板を買って(本当は溝とほぞを切って作るべきなんですが、とても出来ないと思いまして)ドリルでネジ止めして作ってしまいました。
階段のナナメの角度をきっちり合わせて作るのにはとても苦労しました。正面の階段はまだいいのですが、両サイドの階段は向きもナナメなので、自分の怪しげな計算だけを頼りにこわごわ作りました。みんなには「大丈夫。まかせろ」とか言ってるんですけどね。一番不安なのは自分だったりして。あ、いつもそうか。 
でも、結果的にはなかなかかっこいい段になったと思います。 
上に敷いたアクリル板が、使っているうちに傷だらけになるわ、つるつる滑るわで、仕方なく床用滑り止めワックスをホームセンターで買ってきて塗ったりしていました。

転換の必要を感じたのは、スタジオでのセット撮影の場面でした。
こればっかりはそれなりの物がないとテレビ撮影っぽくなくなってしまうので、仕方なくという感じでしたね。 
ひとつはクイズ番組のシーンですがこれは簡単でした。番組タイトルを書いたパネルを上から吊るしただけで、多分僕はどうでもいいと思っていたようで、だれかにお任せで作ってもらったのだと思うのですが、誰に頼んだかも忘れてしまいました。写真を見ると実にいいかげんなパネルで、吊っている紐も丸見え、椅子も適当で、ちょっと反省しました。わざとこうしたのかな? 
悩んだのは森のセット撮影のシーンでした。 はっきり言って本筋とあまり関係ないシーンだし、時間をかけて転換するようなマネはしたくないし、かといって森に見えるようにするには結構こってり物を用意しないといけないし。 
で、「みそじ」でお世話になった松尾さんに相談してみました。もともと舞台奥に設置するトラスを貸してもらおうと思っていたので、その話で会った時に相談してみると、面白いものを貸してもらえました。
グランドで使うような緑のネットに緑の布を短冊に切ったものを無数に結びつけてあって、森のような雰囲気のカーテンになっているもので、それは図らずも伊東が自分で製作していた着ぐるみ「フンババ」と全く同じ質感だったので、実にいい感じでした。 あと、彼の事務所にあったヤシとベンジャミンをそのままお借りしてしまいました。これは本物なので毎日水をやらなければなりませんでした。

装置としてはこれくらいなのですが、この公演は他にも面白い作り物があって、ひとつは志穂ちゃんが写っている口紅のポスター。もうひとつは、志穂ちゃんが歌う歌です。 
ポスターは小川が作ったのですが、それに使う写真の撮影をしなきゃならないということで、当時浅野が勤務していた未来会館でスタジオを借りて結構本格的に撮影会をしたのです。照明機材も借りてきちんとライティングして、当然亜子ちゃんは衣装を着てメイクもして、僕が撮影しました。ずいぶん早い時期に衣装が出来ていたんですね。すごい枚数を撮影して小川が1枚を厳選してステキなポスターにしてくれました。

歌の方は、当時浅野が仕事仲間とバンドを組んでいまして(なんとボーカルなんですが)その仲間の人が作詞作曲しバンドのみなさんが演奏してくださり、出来上がったカラオケに石神亜子が歌入れをしに行きました。バックコーラスで浅野の声も入っています。 
ちなみに振り付けは澤田の担当でした。彼はそういうのが好きなんですね。ホールで繰返し指導していました。

ではここで石神亜子が歌って踊る姿をご覧下さい。

ありがたいことに、この頃はお客さんがどんどん増えていた時期で、5回の公演回数ではとうとう入りきらなくなりました。千秋楽公演でホールに入っていただけないお客さんが20名以上あり、一部の方にはロビーのテレビ画面でごらんいただき、一部の方には残念ながら帰っていただいたのですが、最後の選択肢として追加公演という方法が出てきました。もう一回やったら見てくださるというお客さんがけっこういらっしゃって、思い切ってやってしまいました。
日程的には1:30の回が千秋楽に設定してあり、バラシも早くかたづけて銭湯に行こうというパラダイス計画になっていたのですが、それどころではなくなり、あわてて各方面の手配をはじめたということでした。それも当日の午後になって。
はぐるまさん、松尾さんにもご迷惑をおかけしました。どちらもおめでたいことだからと許して頂けましたが。
追加公演はお客さん13名くらいだったでしょうか。
これ以降公演回数が6回になりました。

次回は第12回公演 晴れときどき曇りところによりAmazing Story についてお話しします。

 

メニューに戻る

 

劇団あとの祭りメインメニューに戻る