清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第10回公演〜セチに捧げるフルコース〜
(1996.3.22-24)

2004年 4月 25日

「RUNBIRD」から4ヶ月後に「セチ」の公演を迎えます。相変わらず速いペースですね。
前回の役者はほぼスライド。プラスで馬渕、浅野が再登場。おやすみ中の池戸がちょろっと出場
スタッフも変わらず、ただし音響の馬渕が出演するためオペレーターに中島、池戸が入っています。珍しい光景です。舞台から客席後方のオペ室を見るとむさくるしい男が並んでいたわけですね。
新人としては前回音響に入った竹島が役者として登場。さらに石神亜子が入団。
彼女は元お客さんで高校を卒業して即入団というすごい意欲の人でした。竹島と石神はダブルキャストでの公演でしたね。

台本は前回に引き続き福富のSF。
会話主体のお話で刀を振ったり走り回ったりという激しい動きはなし。
いろんな場面が出てきますがセットは2パターンのみに集約しました。
セット1は、とある研究施設の厨房、施設の局長室、研究員の個室、施設にバイトで入った那加島さん(大原)が住む家の食卓、これすべてひとつのセットでやっちゃいました。
転換してセット2は、「セチ」の部屋、局長室の前の廊下セチを見送るシーン、といったところ。

セット1ではテーブルを囲んで会話する芝居が主体であり、このテーブルをどう置くかが最初のテーマでした。施設の厨房では主に5人のバイトさんの会話局長室では主に局長と秘書のふたり研究員の部屋でも主にふたり
いろんなバリエーションを考えて、結局6人がけのテーブルで椅子は舞台上下に各2脚、舞台前側に1脚、奥に1脚というセッティングにしました。
舞台前側の椅子に座ると客席にお尻を向けることになるのであまり使えないのですが、1シーンで僕はあえて挑戦してみました。

テーブルと椅子はちょっとお金をかけてカッコイイものを選ぼうと思い、あちこちの家具屋さんやリサイクルショップを見て回りました。なかなかイメージ通りのものが見つからなかったのですが、最終的には旧21号線沿いの平塚家具でいいものを発見。但し椅子4脚の5点セットだったので、お店の人になんとか椅子2脚足して7点セットにしてもらえないかとお願いして、さらにけっこう値切って購入しました。
この時の椅子、今ではうちの実家の食卓で使用されております。

さて、前述の4場面を1つのセットで済ます為に出入り口のパターンをいろいろ考えた結果、中央奥に2段ほど上がって踊り場を作り、そこから上手にドア、下手側はさらに階段を上って袖に入るようにしました。
厨房、局長室、研究員の部屋では上手のドアのみを入り口として使用。
那加島家の食卓では下手側の奥を玄関に見立てて、見え方としては玄関を入るとなぜか階段を下りて食卓、上手のドアからは別室へという、ちょっと不思議な構造の家になりました。
厨房のシーンで、座るところがテーブルだけでは面白くないので奥の壁面に台を作って荷物を置いたり腰掛けたり出来るようにしました。

ランバードのセットを作った後木の質感にハマっていて、今回も同じ質感で行こうと思いました。うまい具合にランバードで使ったラティスをそのまま残してあったので、分解して壁面に再利用しました。
ラストシーンで目潰しを使いたいとのことだったので、奥の壁には隙間を作って光が漏れるようにしました。

いつもは基本舞台から前に90センチメートルほど張り出して舞台を広くして使うのですが、この時は激しい芝居ではないからと張り出さずにやりました。
このホールではそれまで張り出し舞台しか作ってこなかったので逆に新鮮でしたが、やはり狭かったです。
でもこの頃はお客さんも増加中の頃で、客席を増やせるというメリットもあったのです。

さて、セット2の方で最も重要で、かつ最も大きな問題だったのは、セチとの対面シーンをどう見せるかということでした。
(ここから先は思い切りネタバレなんですが、そのうち大原さんがHP上で台本公開するでしょうからいいですよね)
セチというのはいわゆる地球外生命体であり、施設の一室で水槽の中に入れられているんですね。
そんなものをどうやって装置で表現したらいいのか。台本を読んでイメージするセチを舞台でそのまま出すことは不可能ですので(川地を裸にして水槽につけておこうというアイデアもありましたが)装置と照明をうまくからめて、そのようなものを想像してもらうしかないですよね。

まず大きなテーブルを撤去したりまたセッティングするという転換をどうするのか。
喫茶店のシーンで使う小さなテーブルセットくらいはベニヤ1枚に乗せて転換する手法を既に使っていましたが、今度はデカイ。テーブルと椅子6脚を乗せる大きな台を作らなければならないのか、と思うやいなや、御浪町ホールのスライディング機構に着目しました。
御浪町ホールにはスライディング機構というほぼ無意味な機能が備わっており、それまで僕はその機構を利用して装置を作ったことはなかったし、見たこともなかったのです。ただはぐるまさんの杮落としの舞台写真かなにかで段々にセットしてあるのを見た程度だったんですね。で、これもいつか有効に使えないものかと常々思っていたわけです。
で、舞台図を見直してみると、ちょうどい〜い位置に大きなスライドがあるんです。
これを使わなかったらもったいないです。
で、初めてこのスライディング機構を利用させていただきました。
しかも本番中にそれを動かして転換するというちょっと恐ろしげなことをやってしまいました。今だから書けますが、その時ホールの人に仕組みを見られてたら止められてたかも・・・

スライド台の上にテーブルと椅子6脚を乗せた状態がセット1の基本です。
スライドを袖側に移動しテーブルセットが袖に隠れた状態がセット2。
(セット1からセット2へ移る時に椅子を入れておかないと大変なことに!)
セット2の時、舞台には深さ20センチメートル程の大きな穴が開いています。
この穴の内面に自動車の窓に貼るミラーフィルムを貼り照明を反射させるようにしました。真上から芯なしダブル(ラーメン屋のドラストで使った機材です)をあてて光線を回し床のミラーで反射させることでセチを表現したいと、演出と照明に頼み込んで採用してもらいました。

小細工でも奮闘がありましたね。
場面の区切り区切りで浅野扮するギャルソンがヒトコト言っていくのですが、最後の区切りではお料理の蓋をぱっと開けた瞬間炎が上がるという仕掛けを、浅野が自分で仕込んでやってました。すごく良かったのですが一回だけ火が付かずワタみたいな白いのがもわっと見えただけで、あれはさびしかったですね。
あと「カイバラくん」という装置があって自動翻訳機らしいのですが「美味しんぼ」に出てくるカイバラさんの顔をしているらしく、伊東が紙粘土か何かで顔を作って、澤田が中に電球を仕込んで光るようにして、さらにリモコンで走るというワケのわからないものでした。一応お客さんにはちょっと受けてましたが。

ラストシーンはテーブルにご馳走を並べた那加島家の食卓のシーンで、直前のセット2の場面の間にワイングラスやらお皿やら全部並べておかないといけないのですが、その時間がけっこう短くて、普通にやってたら並べ切れないことが分かって焦りました。
誰かのアイデアで、別の板の上にテーブルクロスを敷いて、予めその上に料理を並べておけば板ごとテーブルに載せるだけでいいということになって、助かりました。
大変ものをよく食べる芝居で、ふつうの劇団は食べる振りをするんですが、うちは結構本物を食べます。今回特に川地はビールやシャンパンまで本物を飲んでましたから、カーテンコールの時はすっかり出来上がった状態になっていて、笑えました。

なかなか面白い芝居だったのですが、演出はなにか心残りがあるらしく、いつか再演したいと思っているようです。ま、ないでしょうが。

次回は第11回公演「おいしいキッス」です。石神亜子の歌声にご期待ください。

 

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