清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第9回公演〜RINBIRD〜けして手離すことのない両翼〜
(1995.11.10-12)

2004年 2月21日

「BYPLAYER」が1月,「みそじ」が6月,この公演が11月と,1年間に3回の公演という絶好調の頃ですね。
前回の台本選考会の時には既に構想が上がっていたものの,その時は諸条件により「みそじ」に決まり「次は絶対これね」とずっと暖められてきた作品です。
僕は副題の「けして・・・」は「決して・・・」の間違いじゃないのかと指摘していたのですがそのままでしたね。
92.10〜93.3にTVで「NIGHT HEAD」という超能力兄弟のドラマがあってなかなかよかったのですが,そんな感じです。重いです。僕は参考としてレンタルビデオで全巻鑑賞しました。

メンバーではスタッフで音響に竹島が入りました。馬渕のお友達で自分から入ってきた人だったと思いますが,あいまいです。ごめんなさい。
キャストには澤田が復帰していますね。

お話の舞台はまたいろんな場所が出てきます。飛行場,タクシー乗り場,主人公の部屋,大学教授の部屋,バー,バーの奥の部屋,教会,等々。
この中で特に重要とされる場所のひとつはバーですね。ここは逃走した四人の超能力者が身を隠している場所です。カウンターと高椅子のセットと普通のテーブルセットが必要で,他のシーンとの間で素早い転換が求められます。
もうひとつは教会です。最後に兄 飛鳥英一と弟 飛鳥祐二が対決する場所で,イス二脚とステンドグラスが必要です。
あと彼らの妹 翔子のお部屋,ここには英一や祐二が窓から侵入し,月明かりに照らされるというシーンがあります。
登場する超能力者たちの能力としては,予知能力,テレパシー,サイコキネシス,念写,テレポーテーション,くらいだったでしょうか。
この中で装置に影響するものとしては,まずテレパシーというのは会話する二人が別の場所にいるのが普通ですから別空間を思わせる立ち位置が必要ですね。サイコキネシスは真剣に考えればいろいろ面白いことが出来た気もしますが,本の要求もあまりなかったし余裕もなくて,手を触れずにドアを開けるくらいしか出来なかったですね。単に後ろで別の人が引っ張っただけなんですが。
困ったのはテレポーテーションです。瞬間移動です。プリンセス天功に弟子入りくらいしないとできないですよね。

基本舞台は段が必要と感じました。
台本を読みながら役者の位置関係を想像するのですが,だいたい3つくらいのエリアを段上につくるくらいのイメージでした。
ひとつは中央で,翔子の部屋の窓の位置として,またテレポーテーションの位置として,などなど,中央の段は多用途に使えるものです。
次に上手側にもう少し高めの段をひとつ。バー入り口の扉を開けた踊り場のような感じにして階段を下りて入ってくる形。ですからバーは半地下にあるようなイメージになりますね。大学教授の研究室も同じように人が入ってくるので,そこはあまり大学っぽい感じではなくなりますが,要は絵になればいいのでOKです。
もう一箇所は下手の一番高い段。ここは御浪町ホールで別空間を作るには一番やりやすい場所なのです。テレパシーや電話の会話など体の動きのない会話はもっぱらここです。僕が御浪町ホールで段舞台を組んだ時はたいていこの位置に段がありますね。人が立つと頭が照明機材に当たりそうなくらいの高さですが,ちょうどそのすぐ左にホールの構造上の柱があって天井に上るためのハシゴがついているので,そのハシゴを使えば段にも上れるので,わざわざ階段を作るとかそういう手間がかからなくて便利なのです。

この3エリアの広さ,形状,位置,高さとその間に立てるパネルの位置,形状等を考慮しつつ,いろいろ組み替え検討した結果,中央にイメージしていた段は少し下寄りになり,そのさらに下側に階段状の段を設置し上り下りできるようにしました。この奥に別空間エリアを作ります。
上側の段は奥にドア,右45度の方向に階段を下ろすという形になりました。

その設計を進めるのと同時にパネルの素材を探すためホームセンターを徘徊しており,ラティスという素材に遭遇しました。ちょうどDIYが盛んになってきた頃で,ガーデニング用として洋風の柵のような用途に使われるものだと思いますが,ホームセンターでも販売され始めた時期だったのだと思います。材木が直角に貼り合わされて斜め45度になった格子状のもので隙間がいっぱいあり,これは絶対イケルと直感したのでした。
段上のパネルはすべてこれで統一し,その配置と形状を段の設計と合わせて決めていきました。
まず,上奥にはドアを設置しますがドア用パネルの軸になる部分は天井までの高さを持たせ(これはデザイン上でも仕込み上でも優先事項です),前のほうへ来るに従って低くなるようにしました。中央の段の奥のパネルも高くして,少し手前には素早く登退場できるよう袖のように設置。下奥の異空間用の高い段に人が立った時にはパネルで腰から下が隠れるくらいに設置。
前のパネルの隙間から後ろのパネルが見えさらに後ろも見えるように,いかに立体感を出そうかと随分考えました。考えていくにつれアンデスの山々の稜線をイメージした形になっていきました。
ただ,隙間から後ろが全部見え見えでは役者が隠れて通ることも出来ないので,人が隠れる部分は立って歩いても見えない高さまでベニヤを当てておく必要がありました。

素材は生の木の色なので,深みを出すため茶色に着色しました。ウォルナットあたりの色だったと思います。あわせて階段等の構造物もオール茶色にしました。
壁になる部分は製材屋さんでもらってきたオガ屑を塗料に混ぜて塗り,砂のようなざらざら感を出しました。
舞台の床にも茶色に塗ったベニヤを敷き詰め,舞台全体を自然素材な感じで統一しました。

さて,基本舞台と一緒に大まかな設計だけは済ましておいたものの,作るのが一番最後になってしまったのはバーのカウンターです。
設計段階で舞台中央の段の前っぺりの角度に合わせて設置するような形でイメージし,大きさを決めました。高さは椅子に合わせなければいけないのですが,椅子の選定に時間がかかってしまいました。3脚必要なのですが、あまりこんなところで出費も出来ないので,結局ホームセンターで組み立てキットを見つけて自分で組んで色を塗って仕上げました。これにあわせてカウンターの高さを決め,材木を買ってきてこれも自作しました。足が床に届かない女優さんのために足掛けバトンを渡したりしました。
舞台の前側に置くテーブルと椅子は「BYPLAYER」の時に買ったものをそのまま使うことにしました。
カウンターと高椅子3脚,テーブルと椅子2脚。
これらを一度に出来るだけ早く転換することを考え,それぞれをユニットごとにまとめて動かせるようにしました。
1枚の12mmベニヤにカウンターと高椅子3脚,もう一枚にテーブルと椅子2脚をそれぞれネジで固定してしまい,おのおののユニットに二人ずつついて,滑らせて転換するようにしました。この手法のお陰でかつてない速さで転換出来るようになり、その後も度々やっています。
ただし部品が全部固定されているので「椅子を動かして座る」などという演技は不可能になりました。
公演のアンケートの中に「真っ暗な中で「ザーーーーーー」とすごい音がするので怖かった」というのがあり,すこし申し訳なく思いました。

テレポーテーションをどうするかというので,とりあえずアイデアとして「BYPLAYER」の段に使ったエキスパンドメタルを貼って,下から大型扇風機で風を舞い上げ,照明と組み合わせればまずはそれっぽく見えるのではないかと思い,他に良いアイデアも出ず,なしくずし的に作ってしまいました。
大型扇風機は前回登場したクライム(当時アシストエイム)の松尾さんに貸してもらいました。
エキスパンドメタルの下から真上を向けて扇風機を固定しテストしてみたら,江尻のスカートが舞い上がり「ワオ!」という感じだったので,あわてて角度を変えてエッチにならないようにしました。
この網網部分は本番中にスモークを出すのにもちょうど良い位置で,大型扇風機の横にスモークマシンと家庭用扇風機も置きました。
きっかけ練習中,福富はずいぶん長い時間この場所で扇風機にそよそよされていたらしく,おかげで風邪をひいたとぼやいておりました。

教会のシーンは椅子が2脚いるのですが,これもホームセンターで椅子の組み立てキットを買って,自分で組み立てました。
最初からワックスがかかかっていたため塗料がうまく乗らず苦労し,結局塗りムラだらけでしたが,暗いシーンだったので助かりました。
ステンドグラスは照明さんにお任せしてしまいました。
舞台中央の天井から何色かの光線をほぼ真下に下ろしただけでしたが結構きれいでしたね。最初はもっとカラフルな色でテストしたのですが,照明の川地が「これは下品だな」といって,おとなしめの色に落ち着きました。

仕込みはだいたい問題なく行った方ではないでしょうか。
こういう装置の時,御浪町ホールはとても使いやすいのですね。背の高いパネルは全部天井に材を伸ばして固定できるのです。
今回のように大きな扉をきちっと固定するのは大変なんですが,この手法で楽勝でした。
ひとつ予定外だったのは,この扉は自動的に閉じるようにバネつきの蝶つがいを使ったのですが,扉が重いためにバネが伸びてしまい急遽買出しに行って追加補修,あっさり解決しました。

結果として,この装置は僕が最も気に入っているもののひとつになりました。
もしかすると一番かも。
というのも,すべて設計図通りに仕上がり,計算通りの効果がでたということで,これはすごく珍しいことでもあり(僕にとって),照明の川地氏もいい明かりを当ててくれたし,良い絵ができたと思うのです。
この時お休みしていた中島氏がホールに遊びに来て始めて装置を見て
「いい装置だね」
と言ってくれた時、とっさに
「そうでしょ。籠の鳥のイメージ」
とその時の印象をそのまま口にして彼を感動させてしまいました。その後すぐに「後付けだけど」と言ってしまった自分が正直すぎてかなしい。
たまたま江尻が真ん中にぽつんと座っているシーンで,瞬間的にそう感じたんですけどね。それ以降この装置のテーマは「籠の鳥」ということにしています

この公演で木の質感にけっこうはまってしまい,次回作もふんだんに木を使った装置になりました。
今度は第10回公演「セチに捧げるフルコース」についてお話します。

 

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