清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第8回公演〜みそじ〜恋と桜とタンクローリーと
(1995.6.23-25)

2004年 2月14日

第7回公演から半年弱、いいペースですね。
台本選考会の時「みそじ」と「ランバード」の2本が同時に出て悩みに悩んだ末に決まった本でした。贅沢な悩みでしたね。
参加メンバーも実に色とりどりで楽しげで芝居に合ってました。
澤田,山田,出崎がリタイヤしたかわりに川地,馬渕,浅野,中島らが久々の舞台。故郷石川県での仕事をやめて芝居のために帰ってきた伊東も登場。沓名も出ましたね。
スタッフは変わらずです。

お話は,30歳の誕生日を控えた内気でダサい女性鈴子(小川)が、針師の砂鉄(池戸)やエステ弘美(伊東)らの助けを借りて、バイト先での恋を成就させようというお話。
そういえばこの脚本は、馬渕の原案を中島が台本に起こしたものとのことで、女性らしい視点がとても新鮮で楽しい本でした。
ただし、当時は20台前半から半ばの劇団員ばかりでしたから、本当の30台のお客さんから「分かっていない!」と批判を頂戴したりしました。ある意味禁断のネタだったのでしょうね。

さて、肝心の舞台設定は、まず最初、鈴子が恋人の田中さん(中島)との待ち合わせで一人待つシーン、そこへ車に乗った田中さんと真由美(馬渕)が現れ、3人の車内になります。(馬渕の「あたし?21」という台詞は当時衝撃的でした)
車はガソリンスタンドに止まり、鈴子は田中さんに振られ、アルバイトと間違われ結局そのスタンドで働き出します。
鈴子の自宅には鈴子の父(沓名)、母(大原)、じじい(池戸)という個性派キャラを配しました。
ガソリンスタンドには支店長(川地),バイトくん(福富),タンクローリーの運転手(原),お金持ちのぼんぼん(浅野),本社営業マン藤巻(清水)らがおり、そこに恋のライバルちかちゃん(江尻)が現れさまざまなエピソードが入ってきます。
ですから、ガソリンスタンドの表、裏、道路とめまぐるしく場所が変わります。
そして、季節は春。鈴子が通る商店街は満開の桜並木です。そこで針師の砂鉄と出会うのです。その後は藤巻の部屋、二人で窓から覗いたりもします。
そしてエステ弘美の部屋です。ここではエステ魔王(中島)も登場します。エステ魔王はジョジョの奇妙な冒険の「スタンド」のイメージだとか。
そして夜桜見物のシーンから、タンクローリーが暴走するシーンへ進みます。
タンクローリーに乗ったちかちゃん、藤巻、鈴子ら。
タンクローリーは爆発炎上、最後の大どんでん返しのあと、桜吹雪でおわり。

これだけいろんな要素を個々に見てもわけが分からないので、とりあえず装置として大きく分類し優先順位をつけました。
1番はもちろん桜の木と桜吹雪。2番は桜の木があるシーンとその他のシーンとの転換方法。3番はタンクローリーの表現。その後に、もろもろのこまかいこと。

桜の木は絶対にリアルでゴージャスな桜が欲しかったです。でも、自分で作ろうにもさっぱり自信ないし困っていたところ、江尻から知り合いで舞台関係のお仕事をしている松尾さんという人がいるから相談してみたら?との提案。
勇気を出して連絡を取ってみると、僕らと同年代で気のいいあんちゃんでした。
とは言え、当時から既にそこでのきりもりは任せられてるくらいの人で、今は独立されクライムという会社の社長さんになってます。
彼にまずこちらのやりたいことを説明しないといけないのですが、「こんな桜です」と絵で見せるのが一番早いかなと思い、しかし自分にそんな絵心もないので玉置さんにお願いして描いてもらいました。その絵を見せてお願いしました。
僕はとことん立体的な桜が欲しいんだとお願いしたんですが、そこがなかなか分かってもらえず、なんでそこまで必要なんだとずいぶん議論したように記憶しています。彼は大舞台の経験豊富ですので当然発想が違いますし彼の主張ももっともだったのですが、でも御浪町ホールは4メートル先のお客さんの目を喜ばせたいんだというようなことで、なんとか半円柱状の幹を作ってもらえることになりました。
さらに彼の提案で桜の花びらを散りばめた幕があるけどホリゾント幕の代わりにどう?と。なんでもどこかのホールで五木ひろしが「この桜いいねえ!」と絶賛したものらしく、うまく使えば効果抜群と照明の当て方まで教えてもらいました。
その案を持ち帰って照明に相談したところ川地は難色を示していたのですが「絶対いいから」と僕もよくわからないまま説得して強行し、結果的にはうまくいって、川地の感謝の言葉もあり、ひと安心でした。
松尾さんには他に「雪かご」という雪や桜吹雪を降らす道具もお借りして、それら全部一式で十万か十数万でやってもらったのではなかったでしょうか。
それ以来、自分の手に負えないときは必ず彼に頼るようになりました。

桜の木は当然据え置きになりますので、その他のシーンでは木の前を何かで隠すということになります。もちろん、あらゆるシーンに対応できるように。
やはり幕を使うのが一番やりやすいだろうと思い、幕も細めのものを互い違いに配して隙間から登退場できるようにしようと考えました。
幕は綺麗な色がいいと思い、ピンクと紺色の毛の生えた生地を選び、幕の開き方については、真ん中だけ開くとか、全部開くとかいろいろできるようにしました。
例えば、藤巻の登場、エステ弘美の登場、鈴子のファッションショーのシーンは真ん中だけ開きます。エステ魔王登場の時は真ん中のさらに細いのだけ開きます。桜満開の時はもちろん全開。
袖に3〜4本ロープがあって、それを引っ張ることで操作しました。

暴走タンクローリーは台車のようなものに役者を乗せて実際に動かしたら面白いと提案し、採用。台車を動かす人は役の上でもローリーの運転手の原に決定。
彼はこういう役回りがよく回ってくるのですが、いつも文句も言わずやってくれてほんとありがたかったです。
けっこう大きなものになるので、それで後ろを隠してしまっては良くないと思い、素材はBYPAYERの時に段の床に使ったエキスバンドメタルにしました。
すでにあるものの加工だけなので、車輪を買ったくらいの出費で完成しましたが、これは重かった。原くんご苦労さん。
本番中暴走タンクローリーが出るまでこれを隠しておく場所に困り、この絵のココココココと描いてあるところに立てかけておいて、きっかけでよいしょと倒してセッティングしました。おもいのに。
さらに暴走タンクローリーが爆発するところでは、スモークをいっぱい焚いておいて、真っ赤なAC(太い光線の出る明るい照明機材です)を8発つけて、そうすると舞台の奥のほうは客席から見えなくなるので、その中でまたよいしょと壁に立てかけるという操作をしていました。そしてサスが入ると、そこに鈴子を抱えた藤巻がすーっと見えてくるというシーンでした。苦労の甲斐あって、けっこういい絵になりました。

その他としては、鈴子の家のちゃぶ台も作ったもののようですね。すぐに壊れそうに見えます。
ガソリンスタンドのシーンで天井から給油ノズルを下ろすことにしたのですが、僕は手一杯だったので福富に依頼しました。夜仕込んだガンが朝来たら落ちて壊れていたりして、笑いました。彼なりに苦労して仕込んでくれました
エステ弘美の部屋の丸イスは買ったものです。桜にお金を使いすぎているので、これひとつ買うのもずいぶん悩みました。よわっちいイスなので、中島が乗った時は壊れそうでハラハラしていました。
エステ弘美の部屋では鈴子が美しく変身する場面があるのですが、その時はついたてのようなものを立てて、その後ろで着替えているように見せ、実は幕の後ろまで行って広々と着替えているのでした。脱ぎ捨てた服を順についたてに掛けていくのですがそれは鈴子が自分でやる余裕はないので、かわりに池戸が踊りながらやっていました。
そういえば、エステ弘美のお付きのブタさんは、僕と福富です。
台本にはないキャラクターなので台詞もありませんが、何のために出てきたかというと、エステ弘美に殴られた鈴子がピューっと飛んでいくためだけなのでした。南河内万歳一座という劇団がやってるのがめちゃめちゃおもしろくて、どうしても真似してやりたくて、その時に空いてる役者は僕と福富だけであんまり時間に余裕があるわけではないのにわざわざ着替えてブタさんになったのでした。小川は「馬がいい、ヒワイで」と言っていたのですが、ハンズへ買い物に行った時、馬は高かったのでブタさんにしてしまいました。なんで馬じゃないのと怒られたような気がします。
でもせっかくわざわざ出るのだからいろいろ面白いことをやりましたよ。
ブタさんが藤巻とバイトくんだとバレてはいけないので、顔は全部隠していたのですが、見にきてくれた会社の女子1名から「あれ清水くんでしょ、すぐわかったよ」と言われてビビリました。
あと、キャラクターでまたイカが出ました。中身は沓名と大原です。
しかしこれ以降、イカたちは劇団関係者の宴会やカラオケ大会に貸し出され、現在は行方不明となっています。どこへ行ってしまったのか。

ラストの桜吹雪は雪かごの扱いが意外とテクニックを要して難しかったのですが、けっこう豪勢に降らすことができました。この桜の花びらを切るのがまた大変なんですがね。稽古のときに空いてるひとは絶えずちょきちょきしてました。
ちなみに、桜の木は中身は発泡スチロールのかたまりなので、いつか使うかと思い残しておいたら、劇研の子が「SHOW MUST GO ON」で頭を作るのに使ってくれたようでした。後に入団する尾崎クンらの代かな?

とにかく明るく楽しいお芝居で、お客さんも完全にリラックスして見てくれたようです。うれしかったのは、うしろの2色幕を始めて全開にして桜満開の場面にした時客席からささやかに「ほーっ」というようなため息が聞こえたことでした。

そして、次の公演は打って変わってシリアスで悲しい物語。
次回は第9回公演、RUNBIRD〜けして手離すことのない両翼〜についてお話します。僕の中で最もお気に入りの装置のひとつです。

 

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