清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第七回公演〜BYPLAYERは死なない〜
(1995.1.20-22)

2004年 1月31日

9月の第6回公演から4ヵ月後の公演ですので,休みは1ヶ月くらいといったところでしょうか。本番の頃にちょうど雪が降っていたようです。
第6回の公演回数は土日の4回,第7回では金曜日の夜から初めて計5回に増えています。平日にしかこられない方への配慮と,実際にお客さんが増えてきたための対処だと思われますね。
劇団員の方も増えており,福富たちの1年下で原巧実,あと,後に劇団桔梗屋を主催する出崎拓哉が参加しています。澤田が役者として復活していますが,土本がお休みです。
スタッフもそのままスライド。この時は殺陣のシーンで「キン」とか「ブシュッ」とかの音を出すためにパソコンを使ったようで、パソコンマニアの沓名がその設定とかをやっていました。

この公演は劇団初のダブルキャストの試みがありました。
男4人の主要キャストは固定で,残りの6人を3人づつのチームに分けました。
私は主要な方だったのですが,相手が変わると芝居も変わって面白かったですね。2回見てくれたお客さんも結構いらっしゃったようです。

さて,お話は福富の作品でこれまた当然のSFです。この世界の人には見えない4次元精霊とか6次元天精霊とか8次元神霊とかが出てきます。たしか。
場面としては,雑誌の編集室,喫茶店,ハルコの部屋,ヤマザキの部屋,異次元,その他入り乱れます。同時に2場面3場面を出すこともしばしば。
当然具象は無理なので,デザイン重視でいきます。
クライマックスでは異次元精霊のヤマザキ,シュドウの二人と,彼らがそれぞれこの世界の実体として体を借りた山崎,編集長が同時に剣で戦うシーンがあり,舞台を広く使うことが大前提になりました。
そこで,舞台の後ろ半分を段にして,段上では異次元の二人,前側では3次元の二人が同時に戦えるようにしました。
あとのシーンは,それをうまく使えばどうにでもなります。
ただし,この二人+二人の戦いのシーンはさらに彼らをビルの上から見ているヒロインの立ち位置が必要なのでした。そこで,いつものように奥の落ち込みにイントレを立て,通常は暗幕で隠しておき,そのシーンで出すようにしました。

ただ,単に後ろ半分を全部台にしてしまうと,ご存知の通り舞台右側は壁ですので登退場ができません。仕方なく台の幅を少し狭くして,両側に幕で囲った通路を作りました。

でもかっこよくするにはもうひとひねり必要です。
前々から「いつかやりたい」と思っていたことのひとつに,舞台の床下から上向きに照明をあてるというアイデアがあり,しかしそれを実現する機会と勇気がなかったのですが,「ついにやる時がきた」と思いました。
でもその手法については素材も製法も最初ぜんぜんわからなくて,お店を回っては思案する日々でした。
普通に考えるとアクリル板で段の天板を作ればいいように思いますが,お店で見てみるとべらぼうに高くて手が出ませんでした。
道を歩いていると側溝にはまっているグレーチングが気になりました。でもこれもやはりすごく高価なものでした。
同じように金属製で,菱形の網網のものが設置してある通路とかがありまして,感覚的に一番いけそうな気がしました。でも,それもたいてい端は鉄の枠に溶接してあるものでした。
溶接はできないのですが,あの網網なら固定する方法がありそうと思い,探し始めました。どこに売っているのかも分からないので,こんな時はタウンページと思い,鉄で検索したら「鉄のデパート」というコピーのお店がありまして,地図を頼りに偵察に行きました。近くで路駐してシャッターの開いた倉庫の前をゆっくり歩いて横切ると,中で何か作業しているおっちゃんの横にお目当ての網網らしきものがありそうです。早速中に入り観察。
うーん,まさに鉄。名前はエキスパンドメタルというらしい。板の厚みの違いで何種類かあり,それによりお値段もいろいろ。でも手が出せない金額ではありませんでした。近くのおっちゃんに「これって人が乗っても大丈夫だよね」と聞くと,「おう,この幅で使うんやったら、んー端を溶接しやあ4mmくらいでええわ」みたいなことを言われて,(溶接かー)と思いつつ即決はできず「ありがとー,またくるわ」と店を後にし,その足でホームセンターに行って網網を使う方法を考えました。いろいろ候補を出して1,2週間はプランを揉んでいたように思います。

台の足は普段は木で作りますが,それをやると「ヌキ」といって斜めの補強をいっぱい入れなくてはならずプランで持っていた透明感のあるイメージと違うものですから,やはり鉄だなと思いました。ベストプランは鉄のアングルを加工し溶接で組むのが良かったのですが,そんな技術は誰も持っておらず,ただ劇団員の池戸の実家が鉄工所だと言うのですが彼の実家は郡上ですよ。だめだめ。
妥協案として採用したのが,ボルト締めして棚を作ったりするアングルを使って台の枠と足を作るプランです。悩んだのはその太さと金額です。丈夫に作りたいのはやまやまですが,計算するとやはり結構な金額になるので,心配しつつもちょっと細めのものを選んでしまいました。

段上の広さは材料の規格に合わせて3600×3600で決定。8畳分ですね。
照明の川地と相談して,下に入れる照明機材の大きさを考慮し段の高さを決めました。多分60センチメートルくらいだったと思います。
製作では思わぬ落とし穴があり,アングルの規格は1800mm,900mmであり,その組み合わせで作るわけですが,網網の方はなんと少し大きめサイズで端を何センチか切り落とさないとうまく収まらないのです。ベニヤを切るのとはわけが違うので,すごく苦労して切り落としました。
網網に色を塗るのも大変でした。(もともと生の鉄なので塗装しないと錆びてしまいます) 網の目ですからほとんど空間で,塗るところは細くて多面で複雑で,すごくめんどくさかったですね。

芝居の中では当然段に上ったり下りたりすることが何回かあり,階段がないと上り下りできない高さなのですが,なんと階段は作りませんでした。しかもデザイン重視の理由で。
横に一本アングルを渡しただけで,それを踏み台にして上り下りしてほしいと役者のみなさんにお願いしました。強引ですよね。文句を言いつつもやってくれました。ありがとう。

段の下に照明機材を仕込むのは川地もやりたかった事のようで,よろこんでいっぱい仕込んでくれました。
僕としては段の下に機材以外に何もないのはつまらないと思い,透明のビニールシートを仕込んで,それにも明かりを当ててもらいました。
1/4の右目の記憶で2重らせんを作った素材です。まあまあきれいでしたかね。

忘れてならないのが喫茶店のシーンです。
喫茶店のテーブルと椅子くらいはリアルでかっこいいものが欲しくて,自分で作ろうなどとはとても思えなかったので,リサイクルショップ巡りをしました。
けっこうステキなテーブルセットが手に入ってよかったです。この後も福富の本では喫茶店のシーンがしょっちゅう出てくるので,すごく便利に使い回しました。

芝居の中ではエンドマークで登場した「イカ男」が再び登場しました。
「イカ男」はホタルイカなので蓄光塗料が塗ってあり,暗転すると美しく光るというネタがあるのです。エンドマークを見たお客さんは拍手して喜んでくれましたね。

ヒカリモノと言えば,小細工担当の澤田がこの時もがんばってます。
殺陣シーンで使うサーベル×4本を作ってくれたのですが,透明なプラスチック管の中に,お祭りなんかで売ってるやつで化学反応で蛍光を発する棒がありますがあれを仕込んであり,すばらしい小道具でした。
初めてそのライトサーベルを使った時は、冒頭の戦闘シーンのあと池戸がサーベルを持ったまま暗転したので光ったままで明るい明るい。笑いました。
直ちに立ちが変更されました。良い小道具は立ちに優先します。

網網プランは,結果的には予想通りステキな効果を出してくれました。
照明の川地は「上からの照明が床で反射しないためハレーションが発生せず極めて良い」との感想を持ってました。
でも役者には使いにくく,強度が弱いのでふわふわするし,膝を立てると痛いし,池戸は網網の上で座ってタバコを吸うシーンがあって,ライターが落ちそうで怖いと言ってました。あ,タバコを吸う部分の下には灰皿を仕込んであったような気がします。あの網網でタバコの灰を落としたり火を消したりね。
一度コンタクトレンズを落としたと言って大騒ぎしていたような記憶もあります。
芝居が終わってバラした時に,部分的にアングルが明らかに曲がっている部分があって「よくもってくれた」とほっとしました。
大抵はバラしたあとのセットはすぐに捨ててしまうのですが,この網網は「きっとまた使う時がくる」と,残しておきました。(もちろんまた使いましたよ。)

さて次回はいよいよ第8回公演「みそじ」です。僕の装置人生にとって,とっても重要な人との出会いがあります。お楽しみに。

 

2004.2.21追記

とても重要なことを思い出しました。
この年,1995年の1月17日は忘れてはならない日。阪神淡路大震災の日です。僕らがホールに入っている期間中の事件でした。
朝5時40分です。ボクはホールに入っている間,今の劇団の倉庫に寝泊りしており、その瞬間目が覚め、最初に思ったことが「ホールは大丈夫か?照明は?」
でした。川地をはじめ多くの劇団員が同じことを考えたようでした。
実際にホールでは多少振りの狂った機材があったようですが、あとでニュースを見てびっくりしたのでした。

 

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