清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第五回公演〜The End(エンドマーク)が降ってくる〜
(1994.3.12-13)

2003年11月25日

第四回公演が11月ですから、この3月の公演というのはかなりのスピード仕上げということになります。稽古期間は実質2ヶ月程度だったでしょうか。
スタッフ的にも極めてハードなスケジュールだったように思います。特に衣装さんが大変だったようですね。

装置は相変わらず岐阜大学の文科系サークル共用棟の前を勝手にお借りして作っていました。真冬の装置というのは本当に厳しくて、いかにして楽に仕上げるかが基本になってくるのですが、この頃はまだ人手がけっこうあったのですね。
男手としては、僕と沓名、土本、内藤、福冨、澤田とけっこう贅沢。川地は前回照明のみでしたが、この時から舞台に立ってますね。
一方女性陣は小川、江尻、伊東、あと大原と川村が少し出てますね。江尻と大原は制作担当ですから、衣装はほぼ小川と伊東で、しかもあの分量ですから、大変だったと思います。

さて、お話の舞台は売れない漫画家 野村はる子(小川)の部屋から始まります。
連載していたヒーロー漫画の打ち切りが決まって、不安定になったはる子の精神が時空の歪みを引き起こし、漫画の登場人物が現実世界に流れ込んでくるというストーリーです。
場面設定として明確な指定があるのは、 はる子の部屋、ビルの屋上など。
台本の暴力(←よくあることですが)としては、「全長何万メートル(忘れました)の巨大戦艦が落ちてくる」とか、「無限階段」とか、「爆発した巨大戦艦の破片が流星のように降ってくる」など。
あと、「次元警察?のヤマザキ(土本)が異次元にいる上司の川地と無線で交信する」ような空間分けは当然、後半では悪の大帝カイザーデウス(清水)とはる子の場面と、それを追うプラズマン(澤田、福冨、江尻)とヤマザキの場面を切り替え切り替え、最後交わるというような効果が必須となっていました。

やはりまず基本舞台は転換なしと決めました。それ以上にやらなきゃならないことがいっぱいでしたし。
ひとつは無限階段の処理。
話の流れとしては、
プラズマンたちが階段を上り始める → はる子とカイザー → 階段を上る → 
はる子とカイザー → 階段の途中で止まり悩む → はる子とカイザー →
打開策を行使 → はる子危機一髪プラズマン現われる
という流れだったと思います。
この階段を上るところで、本当に階段を上らせたいと思いました。
安易に考えると、「どこか固定の位置で階段を上っている振りをする」ということに落ち着くのかもしれませんが、設計図の上ではうまくいきそうだったし、本当に走って上ったほうが絶対に面白いと思い採用しました。自分で。
具体的には、舞台奥の落ち込み部分にイントレ(工事用の足場ですね)を立てて、階段を組みました。天井まで届くほどでした。(天井に上る作業で便利に使われてました)
本番では階段を使う前までは黒い幕で隠しておいて、プラズマンたちが階段を上り始めるところで幕を開きました。幕は1本のロープで上下にオペできるようにしました。内藤の作業だったように記憶しています。
動きとしては@階段を上って廊下を通りもう一つ階段を上って袖ではしごを降りて次のスタンバイ A廊下を通り階段を上って袖ではしごを降りて次のスタンバイ B廊下を通り階段を上る途中で諦めかける C別のルートを見出し袖へ戻る Dセンターから派手に登場
という感じで、それぞれのパーツの間に、はる子とカイザーのシーンがはさまっていました。
実際にやってみると本当にそれっぽく見えて大成功だったと思います。
そのかわり走っている人たちは本当に階段を上っているわけで、練習を繰り返すとへとへとになっていました。しかもすごく狭くて危険で、袖ではしごを降りてくるときに上の人に手を踏まれたりしていたらしいです。申し訳なかったねえ。

この階段プランを進めている間に、基本舞台の設計も済ませました。
中央の奥には高めの台が絶対に必要でしたので、(プラズマンが名乗りをしたり、はる子がカイザーを撃ったりするところで前と奥の高低差が必要でした)
それを念頭において、形としてはカイザーの戦艦をイメージし、奥の台以外は全体に傾斜をつけました
サイドの三角形は、最初は人が乗るとは思っていなくて2.5mmのベニヤで作るつもりでしたが、誰かが稽古で乗るような立ちをしていたので、片方だけ急遽12mmのベニヤで作りました。
これもはる子の部屋には不似合いなセットでしたが、仕方ないということにしました。
一見左右対称のようですが、実は右側には上奥へ抜ける通路が作ってあり、センターは左にずれています。こういうことをすると照明のセンターと見かけのセットのセンターがずれてしまうので、ちょっとみっともないです。
けこみにはしっくいを使いました。これは冬にやることじゃないかも。水を使うので冷たいし、なかなか硬化しないし、後悔した気がします。
ベニヤに塗り付けたわけですが、ホールに入ってから1枚ぺらっと完全に剥がれてしまって、その夜塗り直し、しばらく半ナマ状態だったような・・・。

さて、台本上のもう一つの問題は巨大戦艦ドローメの表現です。
あの小さなホールで実物を出そうとしてもダメですから、役者が見ているような演技で処理してしまうのがベースになりましたが、それだけでは装置としてもさびしいので、なにか照明をあてて雰囲気だけでも出したいと思い、また透明素材を検討しました。ホースもシートも使ってしまっていたので今度は違うものにしようと思い、釣り用のテグスを選定。ホール入りの前の週に準備しました。
ただ、細さが細さですから、効果としては本当に微妙なものでしたが、ないよりはあったほうが良かったと思いたいわけです。

そしてドローメの爆発の処理。
なにか降らすことくらいしかできないだろう。でもなにを降らそう。と考えていて、ふと会社でもう使う見込みのない透明なプラスチックペレットがあるのに気付き、
もらってきちゃいました。
この降らし機構もホール入り前夜にずいぶん試行錯誤をしました。
紙なら軽いのでひらひら落ちてきますが、今度はプラスチックの粒ですからけっこうな量を仕込んだつもりでも、ザーッとすぐに落ちてしまいます。
スリットの幅を調節し、2ラインセットして、やっとなんとか見られる最低限になったようです。
お客さんからは「水を降らしたの?」とか聞かれましたね。
ちなみに、これを降らした後、小川はけっこうシビアなサスに入らなきゃいけなかったのだけど、バミリの上に降り積もって見えなくなっていて、さりげなく足でどかしてバミリを探していたと聞いて笑いました。
この粒々、ぼくらは「ドローメの涙」と呼んでいたのだけど、最近でも仕込みで天井に上った時にふとまだ残ったままの粒を見つけてしまったりして、懐かしくなったりします。

そうそう、異次元の川地部長の立ち位置がなかなか決められずにいたんですが、
結局は段に穴を開けることにしました。
段の隅っこの位置を選んでフタ付き構造にして、そこがパカッと開いて川地が出てくる。去るときはパタッと閉まる。という風で、実に面白かったです。
フタのオペは福冨に任せましたが、最後のころはたいへん息が合っていました。

このときの衣装はまるで動く装置でした。
ひとつ(2体)はイカ。これは伊東亜樹の作ですが、この後のかぶりもののシリーズの発端ですね。イカは以降様々な作品に登場し、好評をいただきました。
ホタルイカは暗闇で光るんですよ。
こんなものが袖にいたらさぞかし邪魔だろうと思うのですが、以外とかいがいしく働くようで、長い方の手をおなかのところできゅっと縛って活躍していたようです。

私は「悪の大帝カイザーデウス」という役どころだったのですが、この衣装はすごかったですよー。重い、暑い、頭が痛い、と着るのは本当にきつくて、終演後は立っていられませんでしたが、それでもいい衣装でした。
ホールで一番苦労したのは、頭の角や肩の角が邪魔になって、まっすぐ袖に入れないことでした。この幅に慣れるのにけっこうかかりました。

衣装で少しかわいそうだったのは、沓名が白バイの警察官としてほんのちょこっと登場するのですが、「電気屋さん」みたいだったのでした。頭にパトライトつけてたしね。

終演後の写真を見ていたら面白いものがありました。
今はうちの劇団員の小森や高見が、このころ岐阜大学演劇研究会の1年生(?)として手伝いに来てくれていて写ってるんですが、わかりますか。

さて、次回は当劇団の代表作、第6回公演 ラーメン屋一代繁盛記です。
おたのしみに。

 

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