清水康弘による劇団あとの祭りの装置に関する覚え書き

 

第三回公演〜She said,she said.〜
(1993.3.13-14)

2003年10月12日

第二回公演が8月の終わりですから、それから約半年後の公演ということは、年末年始頃には活動を始めていたということになるでしょうか。
初の中島脚本は、彼が同タイトルのビートルズの曲と桜の舞い散る風景にインスピレーションを受けて書いたものだと聞いた記憶があります。
冬の稽古になりますからさすがに野外ではできず、近所のお寺の本堂をお借りして稽古しました。

新しいメンバーとしては劇研で大原の1年下の代が劇研での最後の舞台を終えて入団してくれました。即ち、役者としては池戸、福冨、江尻、伊東。スタッフとしては転換要員に上田、照明に鬼頭という人々。彼らのおかげで、芝居にぐっと幅が出てきましたね。あ、大原の同期で久富も参加してますね。
ちなみに資料によると、この時佐々木は不参加らしく、照明オペに大原、鬼頭が入っているようですね、全く覚えていないですが。音響は引き続きこのふたり

お話はテレビまんがの「サザエさん」をモチーフにしたものでした。(モチーフというよりは、前半ではサザエさんの登場人物を演じていました。)
時を同じくして「磯野家の謎」がベストセラーになって(どっちが先だったか覚えてませんが)、図らずもタイムリーなネタでした。

さて、装置を考える上での要素として、冒頭は洞窟のような場所から始まります。その後、池戸演じる一人の青年の独白があって、彼は、小川演じるルミコの部屋に家庭教師としてやってきます。二人でテレビ見るシーンでは、実際には役者が「サザエさん」の芝居をします。サザエさんの家としては、電話口のシーン、提供と次回予告のシーン、波平のお葬式のシーン、玄関先のシーン、台所のシーンがありました。そして現実世界に現れたサザエさんたちと青年、ルミコのシーン。電波の中を移動するシーン。終盤で再び洞窟にて出口を発見し割れ目に入っていくシーン。ラストは青年が実家に電話をするのとサザエさんのシーンがシンクロし桜吹雪で終了。
本を読んでこれだけの要素をピックアップしたときは、その途方もなさに絶句しましたね。(その後「よくあること」になっていきますが)

まずは、装置としてどこまで表現しなければならないかを考えました。
最低限、ルミコの部屋は必要でしょう。サザエさんのシーンではやはり背景にはテレビで見るのと同じ絵がないといけませんよね。
台本では、ルミコがテレビのスイッチを入れてサザエさんが始まり、番組が終わったら何事もなかったかのように部屋のシーンが続くようになってますので、その転換をいかにスムーズに行うかが最重要課題でした。
テレビをどこに置くか、ナマ身のサザエさんたちはどこから出てきて、そしたらルミコ達はどこにいればいいのか。
それは花道を作ることで解決しました。ルミコがテレビのスイッチを入れたら、テレビでは「つよししっかりしなさい!」が終わるところを放映していて、(当時はサザエさんの前にやってました)その間にルミコ達は花道を通って客席側にきます。テレビで「サザエでございまーす」と始まるのと同時にナマ身のサザエさんが現れる、ということにしました。問題は現れ方です。
テレビを使うことは外せない条件ですが、客席の後ろまで画面が見える大きさのテレビとなると結構な重さなので転換は難しいと思いました。となると据え置きになるのですが、どうせ据え置きなら他の場面でも活用できるようオブジェに組み込んでしまおうと思いました。結局、部屋の中央に大きな円柱を配し、頭より高い位置に僕の部屋の21型テレビを持ってきて埋め込みました。円柱は真ん中で割れるように作って、その間からサザエさんが登場できるようにしました。
テレビのサザエさんと、ナマ身のサザエさんが同時に「サザエでございまーす」とやった後、円柱の前に絵を出しました。磯野家の絵です。
絵は
電話口、提供、葬式、玄関先、台所の5枚だったかな。舞台全部を隠す大きさを5枚ですよ。布は大塚屋でいちばん安いシーチングを買ってきて、母にミシンがけを頼んで(母はミシンを使う仕事をしていたので)幕にしてもらい、ジャブジャブサーキットさんの稽古場をお借りして絵を描きました。
円柱の前にカーテンレールを吊り、5枚の幕をすべて掛けて、下袖(左側)の方にためておき、場面が変わるごとに黒子が上側(右側)へ送っていくようにしました。
まだ幕扱いのノウハウがない頃なので結構引っかかったりして苦労したように思います。
幕はもう1枚作りました。真っ黒なのを舞台の前のほうに引いて、青年のモノローグの時に使いました。

お部屋らしくするために、円柱の両横には窓を作りました。
いや、窓は絶対に必要なのでした(今思い出しました)。ルミコが一人その窓から外を眺めなければなりません。重要な台本の要求事項だったのでした。
最後の方でみんなが窓から出て行くようなト書きがあったのですが、さすがにそれは勘弁してもらい、柱の割れ目から出て行くようにしました。
お部屋以外のシーンで窓は邪魔なので、そういうシーンでは小さい幕を引いて隠せるようにしました。

どラストで桜を降らすことになっているので、稽古で自分の出番のないときには鋏を持ってみんなでチョキチョキやってました。
本番では、天井に上って降らす人、袖からジェットの風に乗せて舞台へ送る人と分担してやったのですが、調子のいいときはきれいな桜吹雪になるのですが、へたくそな時は寂しい桜吹雪になりました。

せっかくなのでテレビを多用したくなり、いろいろやりました。
サザエさんは毎回録画して、良いのを使いました。
あと、サザエさんが呪文(君が代)で砂嵐を呼ぶシーンで、NHK放送終了時のはためく国旗を写した後砂嵐の画面にするとか、みんなが電波の中を移動するシーンでいろんな映像をこまぎれにつないでノイズをのせて使ったりしました。一瞬だけエッチな映像が入っていたのだけど気づかれなかったみたい。
自分の家でこつこつ編集してました。本番ではテレビの円柱の下にはアンプ1台とビデオデッキ2台とモニターテレビが置いてあり、2〜3人で分担してオペしてもらいました。

その他、電話台は自分の家のを持っていきました。ちゃぶ台と背の高いイスはこのとき購入して、今も我が家にあります。
またCO2を使ってますね。ボンベを天井に上げて、誰かが噴射していたのでしょう。
この頃はけっこう写真を残してますね。天井の様子を記録に残したりしてます。

いやいや、思い出すとよくこんなことをやってたと感心します。詰めは甘いですけど、努力してますね。まだ僕も新入社員で独身で、みんなも学生だったり、それだけの時間が取れたんですね。
今だったらこれだけできるか自信ないです。
次回は第四回公演、「見えないもの達」です。

 

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