この作品は初演が1995年6月.以降たびたび再演の話はありましたが実現せずに12年が経ちました.
今回なぜ再演が決まったのか,4月17日の劇団の会合に出席できなかったのでよくわかりません.
沓名から電話があって「みそじ」の再演と聞かされ,さらに「桜じゃなくて花火」と聞かされた時は正直「やりたくないなあ」と思いました.
そもそも再演自体やりたくなかったし,その上花火なんてどうしたらいいんですか.なんで桜じゃだめなの?
しばらく負のイメージが抜けなかったですが,もう決まってしまった事ですし,背中を押されるように体制に入りました.
体制が始まってみると,今の劇団員で元祖みそじを知っている人はもう僕と沓名と大原くらいだということに気付き,また新たなメンバーも加わって新鮮な気持ちで取り組むことができて助かりました.
新メンバーとしては,もと劇団草演舎の荒井大輔,もと劇研の野村誠,劇団ランドセルの高井友美.あと,再登場の山下愛.そして客演も3回連続になれば殆ど劇団員扱いの松岡良幸.あともう一人
もと劇研の平野大輔が役者参加するはずでしたがスケジュールがあわず音響オペのみの参加となりました.
話の筋は変わらないのですが,初演時は桜という良いモチーフがあったので装置としてはやりやすかったのに対し,今回は花火ですから装置で何をしたら良いものかずいぶん考えました.
条件としては,前半はいくつかの場面が入れ替わりたちかわり,後半でタンクローリーが出てくるところがあり,爆発後最大のオチがあってテンション上げてラストという感じ.
基本的には初演で桜が出てきたところが全部花火に変わっているんですが,舞台で花火をどうするのか.
演出,照明とは当然,クライムの松尾さんも含めいろんな人に相談して,後ろに大画面テレビを何台も置くとか
プロジェクターで写すといったような
花火を直接見せるアイデアも出たんですが,それらはどう考えても陳腐になるような気がして,芝居としてのリアリティを考えたらやっぱり照り返しをうまく見せるしかないのではないかと思いました.
とは言うものの,後半の台本がなかなか出来上がってこないのを言い訳に踏ん切りがつかず,稽古での立ち位置はすべて初演の装置マイナス桜という前提で進めてました.
花火の照り返しを受けるモノが必要だということは実は最初から思っていて,それはやはり堤防だろうと思っていたんですが,堤防をつくってしまうと後半で使うタンクローリーの処理が出来なくなってしまうので
ずっとプランニングできずにいたんですが,いろいろ考えて「できる」と確信してからようやく本格的に設計に入ったのが7月の頭です.
堤防中央の階段部分をセンターで分割し,それぞれ左右の土手部分の下に収納できるように設計しました.
ただ「自分なら作れる」と確信したものの,今回は自分に製作の手間がないと分かっていたので最初から外注に出すつもりでいて,松尾さんが納得して作ってくれるかどうかがポイントだったので,きちっと設計図を描いて,堤防の変形機構が理解してもらえるように準備しました.自分で作るときは作りながら考えながらやるんですが,人に頼むときはそのあたり気を使うし心配ですね.
7月7日の休みの日に長良川の堤防へ写真を取りに行きました.発注するにも受けてもらえるだけのネタを持っていかなきゃなりませんのでね.
松尾さんに最初にアイデアを話したときは「そりゃ鉄骨で作らなきゃならんでしょ」と言われたんですが,設計図を見せて説明したら「これならできるんじゃない」ということで一安心.理解さえしてもらえれば彼なら間違いの無いものを作ってくれるので.
そして段の後ろには階段をさらに延長するような絵を描いてもらうよう注文しました.こういうのは慣れておられるので,図面と写真を渡してOK.
こちらが設計図等
自分でつくらなきゃならんなーと思ってたのは前の幕です.
初演時は後ろに桜しかなかったのですが,今回は堤防を作ってしまうことになったので,芝居の前半では舞台の後ろ半分を使えないような状況になり,非常にせまい舞台で芝居をしなければならなくなりました.後半の堤防を重視し演出に許してもらいました.
幕の素材と色にはちょっと悩みました.色見本帳を調べてパソコン上でいろいろ組み合わせてみました.ただ実際には大塚屋の安売りコーナーで売ってる中から選ばなければならないので,メモを持っていって店頭で修正しながら購入しました.女性の芝居なのでソフトな感じの舞台になるよう素材を選びました.
色によっては売ってる長さが足りず,一部縫い合わせる必要があって,ミシンが得意な市橋佳代子に頼んで縫ってもらいました.
幕開閉の操作は,初演で7分割だった幕を3分割に省略してしまったので楽にできました.仕込みは天井にのぼって滑車をつけてロープを這わせる相変わらずの仕込みで大変ですが.布側の位置決めは合同公演の時に劇団ゼロの石井さんが使ってるのを見て覚えたカーテン用の部品を使って簡単にしました.
こちらが色幕関係
タンクローリー用の台車は初演時の設計図がなく,まあ簡単なものなので適当につくりました.初演時はバイプレーヤーの時に使ったエキスパンドメタルを再利用してシースルーの台車を作ってましたが.今回は普通に木で作りました.
台上はきちんとパンチカーペットを敷いて,椅子の前面には自動車用の反射フィルムを貼りました.安易で失敗だったと思いますが,これくらいはもういいです.
台車の関係
あと,細かなものでは鈴子の着替え用のついたては,劇団アルデンテがColor
Boxという芝居で使って残してあったパイプをもらって枠にして,装置の幕と同じ素材の幕を貼り付けただけ.装置の幕の色は初演と全く変えたんですが,このついたての色はピンクと紺にして初演へのオマージュとしました.
あと,藤巻登場のお立ち台は,劇団アルデンテがColor
Boxという芝居で使って残してあった台をもらってそのまま使いました.
エステシーンの椅子はIC.Ghost
で使ったものを持ってきて稽古で使っていて,放っておいたら荒井と松岡で勝手にうまいことやってくれてました.
劇団アルデンテのColor Box
と言えば,彼らがホールに入っている時に応援に行く振りをして,天井の柱とかバトン位置とかの寸法を計らせてもらったことがありました.良いタイミングでやってくれてました.
そういえば一番最初に作ったのは東尋坊の看板でした.芝居の冒頭で出てくるし本編に関係なくすぐに作れるので,まだ時間のある頃に稽古中さらっと書きました.パソコンやカッティングシートを使えばきれいに作れるんですが,あえて手書きの味を出した方がいいと思って自分で書きました.支えの棒も適当に作って,パネルはテープでとめてあるだけでした.
ラストシーンでは初演時に桜吹雪を降らしたように,花火的なものを降らせたいと思いました.松尾さんにアルミフィルムの降らしモノがいくらするか聞いたら1kgあたり1万円くらいだというので,在庫で持っておられたモノをお借りして使いました.普通は「雪かご」という道具を使って降らすんですが,それだと雪かごのあるところしか降ってこなくて,高さのある舞台なら下では広がって良いんですが,御浪町ホールではそうはいかないので,舞台幅の布を持ってきて下半分に降らしモノ大の穴をいっぱい開けて,これを袋状に吊って使いました.
あと,ガソリンスタンドのシーンでは天井から給油ノズルをぶら下げるプランがあったのですが,道具作成を依頼した荒井の作業が間に合わず無かったことになりました.試作で作ってくれた1号機はちゃんと使いました.
稽古期間中にちょうど長良川の花火大会があり,7月28日の装置製作の後,みんなで見物に行きました.花火も楽しんだんですが,どちらかと言うと土手側の照り返しの様子ばかり見て研究してました.
8月に入り,製作状況を松尾さんに確認するとまだ何も手をつけてない様子.
彼らにしたら当然なんですが,こちらとしては何となく不安で,度々電話して確認してました.お盆明けに「だいたいできた」と電話があり早速確認にいくと,お願いした通りのものになっていてようやく安心.さすがです.
ホールに入ってみるとやっぱり幕の吊り位置が難しく,バトン位置や照明との関係で苦労しました.結局,1本は吊り込み,もう1本は既設バトンをロープで奥に引っ張って使いました.
あと,中央幕だけが開いた時に
左右幕後ろの段が見切られるのを防ぐために,堤防内側にジョーゼットを吊ったのですが,後半に入る頃撤去する必要があり,要員も時間もなかった為ワイヤーで緩く縛っておいて,タイミングがきたら引っ張って外すという荒業になりました.たまに「ごんっ」と本番中に音を出してました.すみません.
転換は相変わらず極めてタイトなスケジュールになりました.誰も余裕なかったです.最大の難関はやはりタンクローリーがらみでした.ローリーは奥の階段幕の後ろに立てかけてあって,堤防のシーンのあとで色幕を閉めて,砂鉄が針で地面の音を聞いているうちに
色幕の後ろで階段を収納し
ローリーを階段幕の後ろから出してセットし
階段幕の前の大黒幕を閉め
段上に目潰しの機材をセットし
藤巻とチカがローリーに座って
クラクションの音に合わせて色幕を開けるという段取り.
ローリーが爆発するシーンでは,爆発音に合わせてローリーを奥に引っ込め
大黒幕を開け ローリーを階段幕の後ろに立てかけ
堤防下の階段を片方出して
その上に藤巻と鈴子が避難して
もう片方の階段を出して 階段のロックをして
その間に藤巻は鈴子を抱き上げ階段のセンターに立ち
照明が入ってくるという段取り,これは色幕を閉めずにケムリと赤いライティングで後ろを隠しての作業.
ちなみにローリーを動かしていたのは高見で,彼は三葉の出番が終わった後
黒い服に着替えてローリーに操縦に備えるんですが,最後の爆発の後
奥に取り残されてしまい袖に戻ってくることができなくて,ただカーテンコールに黒いジャージのまま出るのも変なので,あらかじめ脱いだ衣装を畳んで奥に仕込んでおいて,爆発の後その狭いスペースで身を隠しながら着替えてカーテンコールに出てくるという,泣ける状況になってました.高見クンごめんなさい.
ラストシーンで降らせるアルミは1回分しかないので,終演後は毎回これを撤収して仕込み直す作業にけっこう時間をとられました.荒井が気を利かせてクリヤーファイルを買ってきてくれて,「これで集めると早い」ということで役に立ちました.
降らしの機構は簡単に上げ下ろしできないように仕込んでしまったので,アルミはその都度天井に上って仕込みました.ところが天井の足場から仕込みの位置まで高さ1メートル以上離れていて
普通に手が届かないものだから,ペットボトルの太い部分をつないで仕込み用具を作って天井に常備しておきました.
そんなことで,階段の横揺れをうまく抑えられなかったり,幕の登退でよく引っかかったり,問題点の多い装置にはなりましたが,まあまあ良い芝居になったのではないかと思ってます.
公演が終わってから元祖みそじのビデオを改めて見てみました(稽古期間中は自分に禁じてましたので).
12年前にやった芝居でも,稽古しているうちにいろいろ思い出してきたものですが,それ以上にいろいろ考えられててびっくりしました.でも逆に今から見ると非常にゆっくりしたテンポで作ってあって,12年の間に変わってきたものを感じました.装置でももっと積極的に遊べると良かったんですが,結局今回は(も?)いっぱいいっぱいでしたね.
当初は花火の表現にずいぶん悩みましたが,いいとこまで行ってたと思います.
でももう花火はいいです.
さて,ここから先は実際にビデオで見てみましょう.
なんと,今回のみそじと,12年前の元祖みそじを比較して見られるという,僕にしか出来ないすごい企画です.装置がらみの比較はもちろん,いろいろな事がわかってきますよ.
まずは,エステ宏美登場シーン.センターの色幕だけが開閉する場面です.
キャストは全員変わってます.宏美の従者は実は藤巻さんと川島さんの兼ね役です.だから初演では僕と福富,今回は松岡と荒井になります.
一番最初の台本では出てこなかったんですが,鈴子が宏美にぶたれるところでぴゅーっと飛んでいくのをどうしてもやりたくて,無理やり入れた役です.
宏美登場【花火】 宏美登場【桜】
次にエステ魔王登場シーン.これもセンターの色幕だけが開閉する場面です.
魔王役は初演では中島,田中さんという今回は無い役と兼ねてました.今回は沓名,最初は別の人がやるはずでしたが諸事情によりお父さんと魔王と砂鉄の三役をやることになり,えらいことになってました.
魔王登場【花火】 魔王登場【桜】
次は川島が鈴子に振られて花火大会(花見)のシーンに移るところです.
ここは初演ではそのまま転換していくのですが,今回は間に1シーン入ってから移っていきました.照明からはここも堤防にして欲しいという要望があったのですが,そうしてしまうと
このイメージシーンから花火見物のシーンにうまくつなげられないので,我慢してもらいました.長いのでビデオは間でちょっとカットさせてもらいました.
振られた後【花火】 振られた後【桜】
次にタンクローリーのシーン.舞台裏のばたばたを想像してください.
初演で砂鉄と魔王がきちんと分離されているのに対し,今回は沓名の三役が入り乱れる構成になっています.前と同じ台詞を別の人が言ってることもあり,比較すると面白いです.今回ローリー登場の前になんでこんなに転換時間が足りないんだろうと思ってたら,初演時は1シーン前から色幕を閉めていたということに今気づきました.沓名に妙に長い変な芝居をさせてしまいました.すみません.
ローリー【花火】 ローリー【桜】
最後に大どんでん返しからラストまで.
僕は初演でも再演でも抱き合っているんですね.前回はけっこう初々しい感じですが,今回はより大胆になってますね.お楽しみください.
ラスト【花火】 ラスト【桜】
いかがでしたか.ではまた.
あ,これ
おまけです.初演の時はこればっか練習してたな〜
ぴゅー×2【花火】 ぴゅー×2【桜】
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